雑誌「チルチンびと」77号掲載 設計 奥村昭雄+奥村まこと
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花にこそ日本の美意識が宿ると言う。「風に揺れる草を愛おしむのは、日本人ならではのやさしさ。絵巻物にも見られるよう、平安時代より脈々と、名もなき草の文化はありました」。 そして「庭はつくるものではない、そこにあるもの」とも。「地面に眠る恵みを〝生えてください〞とそのまま受け取る。そんな庭にしたかった」。もちろん住まい手の賛同あってのこと。辻田夫妻は、見事にのってくれた次第。 きっかけは、美紀さんの勤め先の向かいにあった、とある公共施設の木の扉だった。仕事で壁にぶつかると、その扉の取手に頭を埋め、そっと心の中で語りかけていたという美紀さんは、「家を建てるなら、扉をつくった人に頼みたかった」と思い起こす。その施設の設計者が奥村昭雄さん。事務所を構える東京から奈良までの距離を厭わず、快く現場に足を運んでくれた。 さらに奥村夫妻の取り計らいで、施設が取り壊される時、件の扉を譲り受けることに。「お二人からは、たくさんの愛情をもらいました。住むにつれ、そこここに昭雄さん・まことさんの深い心遣いを感じます」と辻田さんたちは語る。たとえば、LDKが不整形な愛情と草花に包まれて

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