雑誌「チルチンびと」77号掲載 設計 奥村昭雄+奥村まこと
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「庭が成熟してから、ぽっくりと逝くのが夢なんです」。庭が育つのに10年、本当の意味で完成を迎えるには30年。親からこう聞かされていた辻田美紀さんは、推測され得る寿命から逆算をしたことがある。そして、「いいタイミングで家を建てることができました」。 整備された住宅街にあって、逞しく、そして生き生きと草花が茂る辻田邸。「家に帰ると草木が祝福してくれるよう。ちょっと、誇らしい気分になるんです」と、5年前に建てた我が家をこう振り返る。「200万年前にサルだった頃の血が騒ぐ、そんな庭です」と笑うのはご主人の勝吉さん。確かにこの家の草花は、ひときわ生命力をみなぎらせ、歓喜の声を上げているようだ。 土手状の敷地で風にたなびく草木は、土に眠っていて芽吹いた種子。さらに実家の庭からの根継ぎや、近隣からわけてもらった種も入り交じり、力強い合唱を轟かせている。「道行く人もまきこむ庭。それが、狙い」と語るのは、奥村昭雄さん(2012年逝去)とともに設計を手がけた奥村まことさん。この庭を「芝生」ならぬ「雑ざっ草そう生ふ」と名付けた83歳の現役・女設計者だ。いわゆる鑑賞用に植える草花とは異なり、住まい手の意図を離れて次から次へと生える〝雑草〞。しかしまことさんは、こうした名もなき草家に帰ってくると、草木が祝福してくれるんです上・右下/実家の植物を根継ぎした、美紀さんお気に入りの裏庭。遊びにきた友人の南波典子さん(手前)は借地で農業に挑戦中で、「楽しむ庭もいいですね」と顔を輝かせる。 左下/庭に生き生きと咲く、バラ“マジカルミラクル”やコバンソウ。21

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