住宅雑誌「チルチンびと」75号掲載 設計 泉幸甫 「家族を包むやわらかな「和」の光」
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「〝和.っていうのは調和の和。その 調和をつくり出すのが素材なんです よ」と泉さん。壁を塗る土にもさま ざまな色があり、和紙にも木にもさ まざまな風合いがあるが、自然素材 同士はどう組み合わせても調和がと れる。だから、たとえ外国のもので あっても、手仕事の温かみや素材の やさしさを感じられるものは、よそ よそしくなく、家と調和していくの だ。「人間の質実な暮らしの中で培 われてきた立ち居振る舞いや所作、 世界中どこにでもそれはあると思う。 でも、たとえば料理に合う器とか、 その場に適切な道具など、日本人は とくに細やかに神経を行き届かせる。 モノと人間の関係が雑じゃない。そ れが〝和.なんじゃないのかな。僕 は、そうしたものと一緒にいられる 家をつくるんです」。  竣工から2年。奥さんと出会う前 は、器や家具にそれほど興味がなか ったと言うご主人。でも「最近だん だん影響されて(笑)。家にいると落 ち着くんですよ。〝和.って〝和み. でもありますよね」と笑う。木、紙、 土といったさまざまな自然素材の調 和を感じられるH邸。家とモノの和、 モノと人の和。そして、家族の和を 育む家となった。 天井を照らしてくれるもの。その良 さは『陰翳礼讃』に書いてある通り ですね」。  一方、Hさん一家は小学生の男の 子と幼稚園に通う女の子のいる子育 て世代でもある。そのため、和の落 ち着いた要素と同時に、楽しさのあ る家でなければならないと泉さんは 言う。吹き抜けのリビングと、キッ チン、ダイニングは仕切りのない大 きな一つの空間に。リビングを囲う ように設けられた階段を上がると、 中2階に子ども室。さらにリビング を見下ろすように階段と廊下が続き、 夫婦の寝室へ。「リビングを中心と して家族が向き合える家。スキップ フロアの楽しい感じや、回遊できる 動線など、子どもの元気の良さを受 け止める間取りになっています」と 泉さん。「いちばんの願いは、家族の 雰囲気をいつも感じる家にしたいと いうことでした。どこにいても、子 どもたちが何をしているかわかる」 とご主人は目を細める。    ご主人の出身地である三重県に暮 らすHさん一家。この地に家を建て たのは2年ほど前だが、泉さんとの 出会いはさらに5年さかのぼる。 「骨董好きの父と母の影響で、ずっ とアンティークの和家具や器が好き。 それに合うよう、自然素材の家がい いなと思っていたんです」と奥さん。 雑誌で見た泉さん設計のとある住宅 に一目惚れして設計を依頼した。 「打ち合わせでは、好きな家具や器 を見せてもらって。それらが僕も好 きだと思えるものだったから、のび のび設計できました」と泉さんは言 う。時間に磨かれた落ち着いた風合 いの箪笥や小抽ひきだし出は、土壁と調和し、 キッチンに置かれた土鍋や竹笊 ざる は吉 野杉の吊り戸棚によく合う。  でも、「〝和.のものだけが好きな わけじゃないんですよ」と奥さん。 最近は北欧の雑貨にのめり込んでい ると言う。「北欧のものでも〝和.を 感じる(笑)。泉さんの家も、和も洋 も感じられるから好きなんです」。  障子や畳など和の要素が印象的な 泉さんの住宅だが、泉さん自身も特 別「和」を意識していないと語る。  玄関の格子戸の向こうに広がる、 やわらかな光に満たされた空間。南 面いっぱいの障子は小春日和の穏や かな日差しをやさしく室内に迎え入 れる。飴色の床に反射した光は、柱 や梁、椅子やテーブル、その上に置 かれた果物かごや湯のみに至るすべ てのものに陰を生み出し、土壁のキ ャンバスには時々刻々と新しい絵が 描かれるようだ。  そこにいるだけで思わずため息が 漏れるH邸のリビング。「陰影がと ても綺麗なんです。光がデザインさ れてる」と奥さん。かの谷崎潤一郎 は、『陰翳礼讃』にて、「障子を透し てほの明るく忍び込む」光は、「何物 の装飾にも優る」と著し、その繊細 な明るさを楽しむことができるのが 日本人の感性だと述べている。「障 子を使うと、光が美しくなるんです よ」と続けるのは、この家を設計し た泉幸甫さん。「障子は光をやさし くしてくれる。そうしたやわらかな 〝和.の光は、床に反射した光で壁や 和は調和であり、和むこと 素材が紡ぐ、人と家の和の関係

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