住宅雑誌「チルチンびと」68号掲載 設計 藤井 章
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かし、庭と一体化したこの家は、言葉では表現できない広がりを持つ。見に行った夫妻はすぐに気に入り、住み始めることに。  結婚してしばらくは賃貸の一軒家に住んでいた小幡さん夫妻。ともに建築関係の仕事に就いていることから、中古の家を買い、自分たちで改修するつもりだった。ところが、「この家には手を入れるところがないですね(笑)」と、ご主人。住み始めて8年、すっかり家と暮らしとがなじんでいるようだ。   15年ぶりに自ら設計した家を訪れた建築家の藤井章さんは、「年月を感じさせない家ですね」と話す。「最近の家は建った瞬間がピークで、あとは古びる一方。でも本来家というものは、竣工して3年くらい経った頃、家の良さを感じ始め、10年くらい経って、なぜよいかその理由が見 つかるくらいがいいんです」と、長い時をともにする住まい手と巡り合えた、幸せな家を見渡していた。 庭が家にもたらす大らかさ アプローチの石畳がそのまま室内の土間へ続き、庭と一体化した居室。大きな開口がさらに内外のつながりを強くする。   当初、客を招くことを意識して設計されたこの家は、面積を確保するためにあえて玄関は設けず、食堂・台所をアプローチとの一体感を持たせるため土間で仕上げた。住み始めた頃は玄関がなく落ち着かなかったという夫妻だが、今では慣れてしまったとのこと。   今では野山のように1年を通して可憐な花が咲く庭だが、住み始めの頃は背の高い木々しかなく、石を敷くところからコツコツと小幡さんが丹精したという。ニシキギやテイカカズラなど木はこの家の購入当時のままに、ヤマボウシは新たに夫妻が植えた。植えられた草花の中には、以前住んでいた家の大家やご主人の実家から貰ってきたものもあり、1 株1株に思い出が詰まっている。ま

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