Vol.6 初夏、ブーケをつくる1 Vol.6 初夏、ブーケをつくる1

4ひきのねこ

みずみずしいグリーンが眩しい店先。藤、姫林檎、サクランボ、スターフラワー、ねむの木・・・と鉢物が充実している。「この中で一番変わってる植物わかる?」と店主の悠三さんに聞かれて、ぐるりと見回すと、あった。奇妙なのが。黄色くて、アーティチョークをもっと大きくしたみたいな、肉厚の皮が重なり合って幹になっている熱帯風植物。「地湧金蓮(チュウキンレン)」と書いてある。地から湧く金の蓮だなんて、この植物にあまりにも似つかわしい名。「これは、耐寒性の強い種類のバナナなんだよ。食べられないけどね。この花の枯れる様子が、すごいんだよ」とスマートフォンを取出し、この珍しいバナナを育てている人のブログを見せてくれる。枯れていく途中で頭が落ち、その部分がぽっかり開いて朽ち果てていく様子は、みてはいけないものを見てしまった気になるほど激しい。「枯れてなお、この存在感は格好いいよね。ある意味、植物は枯れて種をまき散らす時が、一番の命のほとばしりでもあるわけだからね」と悠三さんは言う。


4ひきのねこ

きょうは、ブーケをつくろうと決めてきた。爽やかな黄緑色から、紫色に変化する小さな釣鐘状の花がついたセリンセが目を引き、まずこれを使おうと決めた。それから大好きなクリスマスローズ。淡いグリーンと薄い紫のグラデーション。初夏らしく軽やかなプブレ。縮れた小さな葉っぱと可憐な白と紫の花が付いたピットスポラム。花のついたものは珍しいそうだ。それから、華やかなサーモンピンクのバラ。グリーンの毬状のガーベラには、ガーベラ特有のオレンジや赤や黄色の花びらがない。あれは虫をおびき寄せるための疑似花のようなもので、真ん中の毬状のものこそ多数の花の集合体。その花一つ一つから種ができる。大きな花びらがなかったり、グリーンや白色のものは、生存競争が激しくないところでも育つことができる、原種に近いものなのだそうだ。

 

4ひきのねこ

 

ブーケは二度目なので、前に言われたことを思い出しながら、茎の感触が手の中でゴロゴロしていないかを感じながら、束ねていく。前よりも早く形になってきた。

 

4ひきのねこ