vol.3花と遊ぶ(前編) vol.3花と遊ぶ(前編)

4ひきのねこ 9月

9月といえども残暑厳しく、外はうっとおしいほど暑いけれど、お店の中は涼しい。白い花、薄いピンクの枝もの、など可憐なものやビバーナムやバラの実、など細かい実のついたもの、赤やオレンジ、黄色の葉っぱものもちらほらと並び、秋の気配を感じる。

 

緑に涼しさを求めてなのか、お客さんも多かった。花を見に来る人、檸檬の木を買いに来る人、テーブルで、お茶を飲んでいる昔馴染のような人。ひとしきり人の行き来が落ち着いてから「さあはじめようか。今日はどうする?」と悠三さんが言う。「ブーケにしてみようかな」「私は、花器にします」友人と二人で来たのでそれぞれ違う形に挑戦してみる。ブーケを選んだ私。店でまず目にとびこんできたのは、大きな薄緑色の秋紫陽花。食べたくなるような絶妙な色をしている。枝ものもある。グリーンも多い。

 

バナナの花

「ブーケはね、難しいよ。もちろん作りながら考えるときもあるし、最後にぱっと大きな花を入れてドラマチックに変化させたりもする。それは好き好き。お客さんの好みで変わったりもするね。でも、まず最初はなんとなく色とかカタチ、全体のイメージを大きく決めてから、大きな花を先に選ぶといいね。小さいのは茎が柔らかくて細くてよくしなるから、あとから加えていきやすいけど、太い茎のものをあとから入れようったってなかなか簡単には行かないからね」

 

ずっと花を持ちっぱなしのままの左手は自由がきかず、かつ頭の中で次にどれを入れようか考えながら右手で取り、それを束ねていくという行為があるので、たしかに花器に入れるときほど余裕がない。どんどん手もしびれてくる。

 

「親指側の、開きやすいほうからついつい花を入れたくなるけど、そこにばっかり新しい花が集中してしまうから、裏からも入れてあげるといいよ。こんなふうに中指とか薬指で、入れる花を固定させておいて、人差し指をくぐらせるんだよ」

 

・・・と言われても実際やるのはなかなか難しい。指がつりそうになりながら、なんとか言われた通りに頑張っているうちにブーケがどんどん形になってきた。アジサイやガーベラの大ぶりな白とグリーンをベースに、木苺色と白のアザミのような形の小菊で動きを出し、紫や赤や茶系統の小さい粒々の実をアクセントにして零れ落ちるようなシルエット。「いいね」と悠三さんが言ってくれた。

 

ブーケ

 

「こんなの作ってやろうと思って無理に作っていると、茎のところを束ねた手がゴロゴロするんだよね。なにか違和感がある。例えばお客さんなんかで、値段よりも高く見えるように作って。っていうリクエストもあるよ(笑)。いろいろと頭で考えた人間の邪気が入ると、どうしてもそれが花にも伝わるんだね。何も考えず、花に任せてやる。もちろんぼんやりしたイメージはあるんだけれども、あとは花に聞く。そうするとすごく生きたブーケになる」

 

「中川(花人:中川幸夫)先生が"花には誘いの手がある"と言っていたよ。できあがった花をみれば、その人がどんなことを考えているか、出てくる。人間の仕事には、その人の"手"の気配が残るものなんだね。前にも言ったけど、花はもう切り花になった瞬間から人間の手で命を落としている、その業を背負っているんだから、花が美しくなるために、人間は最後まで責任もって手を入れてあげる、見届けてあげないといけないよね」

 

"誘いの手"か・・・その言葉を聞いてから眺めるブーケは、また一つ違う表情を見せてくれた。